【Insight】次世代物流ネットワーク時代の構造変化
2030年 輸送能力の3割超が不足する可能性
物流業界を揺るがした「2024年問題」――ドライバーの時間外労働上限規制が本格施行され、輸送能力が逼迫しました。ただ、この規制はあくまでも構造的な問題の一端が表れた局面に過ぎません。国土交通省の試算によれば、対策を打たない場合、2030年には国内の輸送能力の約34%(9億t相当)が不足する可能性があります。国内貨物輸送のトンベースで9割超を担うのはトラックであり、そのトラックドライバーの有効求人倍率は全職種平均の約2倍です。長時間労働・低所得という構造が、慢性的な担い手不足を生んでいます。物流は社会インフラです。「荷物が届かない」という事態は、企業の競争力に直結するだけでなく、生活者の日常にも影響します。産業全体がいま、この問いに向き合っています。
物流業界を取り巻く現状
物流業界の規模
営業収入 約32兆円 従業員数 約223万人(2024年度)
国内貨物輸送
トンベースで自動車が9割超。トンキロベースでは自動車約5割、内航海運約4割
トラックドライバーの需給
有効求人倍率は全職種平均の約2倍。労働時間が長く、所得は全職業平均を下回る
2030年の輸送力不足
対策未実施の場合、輸送能力の約34%(9億t相当)が不足する可能性あり
改正物流法により、荷主にも義務が生じる
2024年以降、政府は矢継ぎ早に手を打ってきました。「物流革新に向けた政策パッケージ」は、商慣習の見直し・物流の効率化・荷主と消費者の行動変容という3本柱で構成されています。注目すべきは、改正物流法による規制強化です。流通業務総合効率化法では、特定規模以上の荷主・物流事業者に対して、物流統括管理者の選任と中長期計画の作成・定期報告が義務付けられました。貨物自動車運送事業法では、書面交付・実運送体制管理簿の作成が求められ、多重下請構造の是正が促されます。 これまで「物流は物流事業者の問題」と捉えがちだった荷主企業にとって、自社の物流管理体制そのものが問われる局面に変わりました。
構造変化を加速させる4つのトレンド
政府が「次期総合物流施策大綱」の策定に向けて議論を進める中、以下の4つのトレンドが物流の構造的な前提を変えつつあります。これらはそれぞれ独立した課題ではなく、互いに絡み合いながら業界の「当たり前」を塗り替えていきます。
4つのトレンドのポイント
① 労働力の供給制約
15〜64歳の生産年齢人口は2050年までに約1,800万人(25%)減少する見通し。ドライバーをはじめとした物流人材の確保は、より困難な状況に
② 小口・多頻度化
EC普及により、貨物1件あたりの貨物量は直近30年で3分の1に縮小。貨物総量は40%減少しているにもかかわらず、物流件数はほぼ倍増
③ 輸送モードの多様化
トラック一辺倒から、鉄道・内航海運・航空も組み合わせたマルチモーダル輸送への転換が推進。2050年カーボンニュートラルの実現も、輸送モードの選択に影響を与える
④ 自動運転・技術革新
1人が複数の自動運転車両を監視する「1対N」モデルにより、2050年には商用車ドライバーが約20万人削減され、年間約1兆円の効率化が見込まれると試算
フィジカルインターネットとは何か
こうした複合的な課題に対し、個社の努力では限界があるという認識が広がっています。そこで議論の俎上に上がっているのが「フィジカルインターネット(Physical Internet: PI)」という構想です。デジタルインターネットが情報を標準化されたパケットで最適経路を通じて届けるように、物理的な荷物もまた、標準化されたコンテナ・ハブ・プロトコル(運用ルール)を通じてネットワーク全体で最適輸送する仕組みを指します。現在の物流は、各社が自社のネットワーク・車両・倉庫を個別に持ち、それぞれが「部分最適」で動いています。フィジカルインターネットはこの前提を変え、業界横断でリソースを共有・統合することで「全体最適」を実現しようとします。
欧米と日本の現在地
フィジカルインターネットは日本だけの議論ではありません。米国では、概念の提唱者であるブノア・モントルイユを中心に、2015年にジョージア工科大学内にPhysical Internet Centerが設立されました。製造・流通・都市物流・サプライチェーン強靭化など7分野で研究・実証・産業連携を推進しており、欧州のALICEとも連携しています。欧州では、2013年設立のALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)が、産官学・民間企業を横断した28以上のプロジェクトを同時並行で進めています。マルチモーダル輸送の標準化、内航輸送のデジタル化、ラストマイルの脱炭素化など、PIの考え方を現場に落とし込む実装フェーズに入っています。
欧米が産業横断での標準化・データ連携を「実装フェーズ」で進めているのに対し、日本では「議論フェーズ」から「実証フェーズ」に移行している段階にあります。
新たな事業機会であり、対応の遅れは競争力低下にもつながる
フィジカルインターネットの進展は、「新たな事業機会であると同時に、対応の遅れが競争力低下につながり得る構造的な脅威」でもあります。短期的に完成するものではありません。2040年までの段階的なロードマップが描かれていますが、デジタル化・モーダルシフト・設備標準化は部分的に先行して進みます。「まだ先の話」と先送りすることで、将来の物流ネットワークにおける自社の役割や影響力を失う可能性があります。
いま問われているのは、完成形を待つことではなく、「準備期」に何をしておくかです。
業界ごとの「守り」と「攻め」
フィジカルインターネットは一気に実現するものではありませんが、その前提となる標準化・データ化はすでに始まっています。各業界に求められる対応を整理すると、「守り(効率化・生き残り)」と「攻め(事業機会の獲得)」の両立が共通テーマになります。
業界別の示唆と提言
荷主(メーカー・小売)
守り
物流要件・業務の標準化による調達・供給リスクの回避。最低限の可視化・データ接続により「運んでもらえる」状態を維持
攻め
物流設計を競争優位の源泉と位置づけ、輸送コスト・リードタイム・品質を戦略的に管理する体制へ転換
倉庫・3PL
守り
属人化・個別対応からの脱却。デジタル接続を前提としたWMS・設備の更新により、荷主の選択肢に残り続ける
攻め
倉庫を「保管場所」からネットワークの中核機能へ進化。早期の標準業務・データの確立により、先進企業としての地位を確立
輸送業者
守り
荷待ち・荷役・積載率など現場実態の可視化。法規制を踏まえた運行モデルの構築
攻め
輸送設計・調整機能を担い、データを武器にネットワーク内での発言力を強化
ラグナグ・コンサルティングが考えること
「自ら事業を運営したことのない人が、経営を語れるのか?」この問いが、ラグナグ・コンサルティングの出発点です。だから私たちは100%子会社「事業工房(ザモスキ・ワークス)」を設立し、クライアントと同じ制約条件の中で自ら事業を運営しています。 私たちが目指すのは「水先案内人型」のコンサルティングです。判断が求められる局面に実行責任を共有しながら一緒に立ち、自走できる状態になったら手を離す。そして、今解くべき一点に踏み込む「適時適解」を大切にしています。
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■ 調査概要
レポート名:物流業界レポート 次世代物流ネットワーク時代の構造変化と事業機会 ―フィジカルインターネットの概要とその影響―
発行:2026年2月 ラグナグ・コンサルティング
出所:国土交通省「2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会」、同「物流革新に向けた政策パッケージについて」、内閣府「物流革新及び賃上げに向けた政府の取組」、Physical Internet Centerウェブサイト、ALICEウェブサイト他公開情報を基にラグナグ・コンサルティング作成